女性の活躍
第45回全国トラックドライバー・コンテスト女性部門、総合得点920点で見事優勝した東 真由美さん。
女性ドライバー日本一となった東さんに大会を振り返ってもらい、トラックドライバーを目指したきっかけや優勝後の状況、今後の夢などを伺った。
第45 回全国トラックドライバー・コンテスト女性部門優勝 東 真由美(ひがし・まゆみ)さん
(岡山県代表、日本通運㈱ 倉敷支店 引越・物流センター事業所)
「強い意志をもち続けて日本一!狙っていました」
平成25年10月28日、第45回全国トラックドライバー・コンテストの表彰式場では、女性部門の入賞者発表が行われていた。
そこに、「まだ、呼ばれては困る…」。そんなことを考え続けていた選手がいた。第5位、第4位と入賞した選手が舞台に上がっていく姿を見ながら、「ほっ」とし、そして第2位も他の選手の名前が呼ばれたと同時に、勝利への確信に変わった。
「女性部門第1位、岡山県代表、東真由美さん」その自信とは裏腹に、舞台の上へ向かう途中、これまでの様々な思いが頭をよぎり、とめどなく涙があふれた。全国トラックドライバー・コンテスト女性部門ナンバーワンという場所にずっと憧れていた、というよりもっと強い意志で、それが「目標」だったのだから。
何でもこなすマルチプレーヤー 出場の誘いに 「はい、出ます」
東さんは、普段は、日本通運株式会社倉敷支店の引越・物流センター事業所に勤務する。大型のタンクローリーから引越やJRコンテナなど、様々なトラックを乗りこなす。輸送範囲は岡山県内を中心に、時には広島県、鳥取県などの近県で、長距離はない。
上司の宮崎哲夫所長は、「東さんは、元々仕事熱心な上に、新しいものや未知なものへの探究心があり、仕事への向上心も強いと思っていました」と、東さんを評する。そんな東さんに「ドライバーコンテストに出場してみては?」と声をかけたのは3年前。東さんの反応に迷いはなく「はい、出ます」の即答だったという。
宮崎所長は、「その目を見て『本気だな』と感じましたが、まさか、本当に優勝してくるとは、その時は思いませんでした」と笑顔で語る。
「1位じゃないと帰れない」 自分に強いプレッシャー
これだけの強い意志をもち、鍛錬の裏付けもあって大会に臨んだ東さん。大会に出発する直前に、事業所の皆にあいさつした時、「絶対優勝してきます」と宣言して出発したのだという。
当時を振り返り東さんは、「本当に1位にならないと、もう帰れないと思いました」と笑い、こっそり「実は、優勝でも本当に狙っていたのは『内閣総理大臣賞』の方でした」と話す。
東さんのドライバーコンテストの出場は、第45回大会が2度目。第43回大会に岡山県代表として出場し、初挑戦ながらいきなりの全国大会女性部門準優勝。しかし、次の年は諸般の事情で出場できず、これが大会規程により最後の出場チャンスだった。
だからこそ、自分に強いプレッシャーをかけての挑戦だった。「絶対に勝ちたい」という強固な意志をもち続けた。
- 「ドライバーコンテストにかかわってきたこの期間は、とても実のあるものだったと感じています。初出場では女性部門準優勝でしたが、今振り返ると簡単に優勝しなくてよかったと思います。その結果が今の自分に繋がったのだと思います。悔しさをバネに次の勝 利を誓い、地道に努力を積み重ねてきました。だからこそ、表彰式で自分の名前が呼ばれた瞬間は、今までの苦労とともに、これまで指導してきてくださった方々の顔が頭の中を駆け巡り、涙が止まりませんでした」
特別でない「日常」を意識 学科対策には四苦八苦
大型免許もトレーラの免許も、会社の指示ではなく、自分の意思で取得するほどの「がんばり屋」で「努力家」の東さんも、大会出場にあたって苦労したのはやはり学科だったという。
どうやって勉強したらいいのかが分からず、とりあえず取り組んだのは過去問題から。通常業務の中で学科の勉強ができるのは休みの日だけ。休みの機会に重点的に取り組んだ。
「集中力が続く時には、一日中机に向かうこともありましたが、手につかない時は割り切って一切参考書は見ないなど、メリハリをつけました。大会本番の学科は特に難しくて、問題を理解するのに精一杯で、制限時間ギリギリまでかかりましたが、あきらめない強い気持ちで乗り切りました」
一方で、運転や点検の実科競技に関しては、徹底的に「日常」にこだわった。
東さんは、「私の性格としてとても『あがり性』なので、大会や特別な時のためだけに特別なことはできないと思い、とにかく体に染み付いた『クセ』のような状態にしようと、日常から自然に正確で的確な運転操作や態度が出るように気を付けました。特に運転操作 は日常から、安全運転のため基本操作を徹底的に意識していました。危険予知を基本に、特に歩行者や自転車など交通弱者の保護に努め、ゆとりをもった運転と、エコドライブにも配慮しました。業務中はもちろん、自家用車での通勤で運転する時も徹底していました」と話す。
構内で課題走行コース 朝一番からひとりで特訓
- また、スラロームなど慣れない課題走行については、「自分で会社の構内に模擬コースを手作りして、朝早くから練習しました。仕事の始まる前に来ないと、他の方の邪魔になるので、朝は5時頃、空が明るくなり始める頃から、始業までが勝負でした。点検については、毎日の業務前に必ず実施していることなのですが、実際の大会ではたった2分という制限時間内に課題が出題されると聞いていましたので、どこが課題として出されてもいいように意識して、毎日が大会のように自分の中でシミュレーションして練習しました」と、徹底的に「日頃の習慣」を実践した。
たくさんの支えに感謝同じ目標の仲間は宝
足掛け3年にもわたる努力が実を結び、大会では、1000点満点中、総合得点920点で見事女性部門優勝。この報告は、事業所の仲間や両親に胸を張って届けることができた。
「私が『優勝』という目標を達成することができたのは、たくさんの方々に支えていただいていたからだと思います。優勝の報告は皆さんにとても喜んでいただきました。その中でも、指導員の方や一緒の目標をもってともに頑張った仲間が喜んでくれました。両親にも報告しましたが、どんな大会かよく分かっていないようでしたが、『とにかく優勝おめでとう』と喜んでくれました(笑)」
幼い頃に父親と一緒に映画で見た、大きなトラックをさっそうと運転し全国を駆け巡るドライバー。その姿に憧れて飛び込んだプロのトラックドライバーという職業の世界で、1つ目標をクリアした東さん。優勝者は規程ではもう大会に出場できないため、卒業した立場から大会を振り返ると…。
「ドライバーコンテストに出場したからこそ知り合えた、全国の同じ目標をもった仲間達は一生の宝だと感じています。また、ドライバーコンテストで養った知識、経験を自分だけのものにしないで、仲間や次の世代に伝えていくことも私の使命だと感じています。
人に伝えることは難しいことだとは思いますが、これは私の責務だと思います」
メモリアルなもの輸送したい トレーラの免許も独自取得
趣味は「温泉めぐり」と「岬めぐり」。全日本トラック協会の保養施設「道後やすらぎ荘」(愛媛県松山温泉)も制覇済みとのこと。大会も終わって通常の業務、生活に戻り、ドライバーコンテスト優勝の目標も達成した東さんには、実は、もう次の目標が見えている。根っからのトラック好き。それも大きければ大きいほどいいという東さんらしい。
「最近、けん引免許も取りました。まだ、ペーパードライバーですが、いつかはトレーラの仕事も任せてもらえるようになりたいです。それも、特殊な貨物を輸送してみたいというのが将来の夢です。新幹線や風車のブレードなど、地図に載るものや、メモリアルなものを運んでみたいです」
今後も仕事にまい進 女性だからこそ自分に負けない
女性ドライバーということについて東さんは、「自分ではあまり意識していませんし、実は『女性だから』と言われるのが好きではありません。自分も今現在男性と全く同じ仕事をしていますし、意識しません。同じ女性にいえることは、自分が決めて選んだ道を誰にも負けず、そして自分に負けずに突き進んでほしいと思います」と、東さんらしく、凛として真っ直ぐな視線で話してくれた。
<広報とらっく/平成26年2月1日号掲載>